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No.96 オーバーヒートによる消耗に「西洋人参」

 「西洋人参」は,「朝鮮人参」と同科同属の近縁の植物の根を用いる生薬です.18世紀初めに北アメリカで発見され,清代の漢方で注目されていた「甘寒」の薬性をもつ生薬の一つとして優れた薬効が認められ,当時の著名な本草書『本草従新』に収載され,「清暑益気湯」の新処方の主薬としても採用されました.

 「甘寒」とは,甘味と寒涼性(冷やす性質)をもつことを意味します.甘味の生薬は,人体内に入ると,補益・保護・緩和の作用を生じ,寒涼性は,組織の機能が過亢進・過熱しないよう抑制して,安定させる効果があります.

 「西洋人参」の作用の対象は「心」・「肺」・「腎」です.体内に吸収された水分が,循環器「心」から呼吸器「肺」を経由して全身に供給され,泌尿器「腎」で排泄されるまでの,体液「水」の代謝経路の要所に作用するわけです.そこで「甘寒」の薬性は,主に「水」の不足を補い,組織を浸して機能を安定させる働きを助けます.

 清代には,急性伝染病(「温病」)の多発で,長びく高熱のため,飲食物では容易に回復できない「水」の不足を起こす人が増え,「甘寒」の薬性をもつ生薬が多用され,「西洋人参」も新しい選択肢となりました.現代では,異化作用亢進を来たす生活習慣病や薬物の副作用,地球温暖化による猛暑など,「水」の不足を生じ,「西洋人参」が役立つ場面が増えています.