No.111 体から水分を抜かずに浮腫を治す方法
浮腫(むくみ)は過剰な水分が溜まって体表が膨れる症状です.必ずしも全体に水分が多過ぎるわけではありません.体内の各器官の生理機能を発揮する主役である実質ではなく,その外側を囲む間質に水分が停滞する状態です.この過剰水分は本来,間質を巡る血管内に吸収されて搬出されるべきものです.ところが,どこかの血流が停滞して,毛細血管内の血圧が十分に下がらないと,あるいは,血中のタンパク質成分(アルブミンなど)の濃度が薄くて血液の浸透圧が低いと,間質の水分を血中に引き込む力が働かず,体表の浮腫や内部の水腫(胸水・腹水など)を生じるのです.
漢方では,浮腫を起こす組織間に停滞して役に立たない水分を「湿」と表します.「湿」を血中に引き込み排出を促進する薬性を持つと考えられる淡味の生薬「茯苓」を活用する処方「五苓散」が有名です.水分代謝を担う「腎」の機能を高めて「湿」の排出を促す「牛車腎気丸」などの処方も広く知られています.
血行不良がある場合には,「血」の流れの停滞を解消する「丹参」を主にした「冠心Ⅱ号方」や「当帰」を主にした「当帰養血膏」が「湿」の予防にも役立ちます.心拍の弱まりがあれば,「人参」で「心」の力強さ「気」と,「麦門冬」で組織の安定性のもと「陰」を補う「生脈散」の併用が有効です.また,「湿」を起こしやすい消化器「脾」の虚弱体質を治す「参苓白朮散」は血液のタンパク質成分を回復する助けになります.
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