メニューを開く

No.115 障害された神経の機能を再建する漢方

 神経は人体の中枢と末梢をつないで情報や命令を伝える経路です.神経が障害されると,体性神経の場合,知覚神経ならば感覚(視・聴・触覚など)が鈍くなり無くなるか,痺れや痛みを起こし,運動神経ならば手足などが重くなり動かなくなるか,痙攣・強張りを起こします.自律神経の場合,求心路ならば内臓感覚(空腹・渇きなど)を感じにくくなるか,異常な関連痛を起こし,遠心路ならば内蔵機能調節の失調か,過敏反応を起こします.

 漢方では,解剖ではなく現象に基づいて帰納的に推定された,体内の「気」と「血」が運行する経路を「経絡」と呼びます.痛み・痺れ・痙攣・麻痺の症状には「経絡」の流れの阻滞が関わります.様々な薬効を持つ生薬の中に,「経絡」の阻滞を解消する「通絡」作用に特に優れたものが知られ,広く活用されてきました.

 清代の漢方処方「大活絡丹」の構成生薬の中で,「蘄蛇」は痛み・痺れを起こす「風湿」を散らして除去する「去風湿」と「通絡」の作用を持ちます.「全蝎」・「白僵蚕」・「地竜」は神経障害の引き金になる痙攣「内風」を和らげる「熄風」と「通絡」の作用を持ちます.「乳香」・「没薬」・「血竭」は血行障害「瘀血」を解消する「活血」と「通絡」の作用を持ちます.「蘇合香」は知覚神経障害「閉」を芳香の刺激で打破する「開竅」と「通絡」の作用を持ちます.このように「経絡」の阻滞を解く知恵を総動員して,重症の痛みや半身不随にも使える手段を獲得しました.