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No.59 「陽」か「陰」に偏らず「精」をつける「補腎薬」

 漢方では,「腎」は生命維持のエネルギー源である「精」を蓄えていると考えます.女性は35歳,男性は40歳以上になると,誰でも消耗に補充が追いつかず,「精」の蓄えは減少に転じ,「腎」の泌尿・生殖・免疫機能の衰えや,全身組織の老化が現れ始める原因と考えます.

 「精」の減少は,「腎」に支えられている人体の「陽」と「陰」の両面の減退につながります.「陽」は盛んな活動,代謝の活発化,機能的な力強さなどを生じる働きを,「陰」は安らかな休養,代謝の安定化,栄養状態の充実などを生じる働きを象徴します.「陽」が減退すると,疲労・冷え・水分過剰が,「陰」が減退すると,のぼせ・ほてり・渇きが症状に加わります.

 「補腎薬」の基本処方に使われてきた生薬の変遷をたどれば,原点となった漢代の「八味地黄丸」の主薬「地黄」は,「精」を益し,「陰」を養う薬性があり,宋代以降に,「陰」を補う処方の発達のために活用されてきた生薬です.一方で,宋代の「十補丸」から配合生薬に登場した「鹿茸」は,強く「精」を益し,「陽」を助ける薬性があり,「陽」を補う処方の進歩に貢献してきた生薬です.「陽」か「陰」を補う用途に振り分けず,強く「精」を回復するため広範に利用できる生薬は少なく,「魚鰾」が該当する貴重な存在で,明代の「聚精丸」の主薬です.

 「補腎益精」が「聚精丸」の薬効です.甘味で粘・渋性の「魚鰾」と「沙苑子」の濃厚な滋養・固摂の薬性が「精」の重点的回復に役立ちます.