No.60 歴史の主流からは独立した「補腎薬」構成
生命の基礎を支える「腎」の機能系を助ける漢方処方の歴史は,「地黄」を主薬として漢代に考案された「八味地黄丸」から始まります.その中の6生薬は,宋代から「六味地黄丸」として,明確に「腎」の「陰」の要素(栄養状態と休養態勢の充実度)を補うため使われるようになり,さらに生薬を加味し,他臓にも「陰」を補うよう薬効を広げた処方が発展しました.たとえば,清代の医学書を出典とする「杞菊地黄丸」は「腎」と「肝」の「陰」を補う名処方として,現代日本でも愛用者が多い漢方薬です.
同じく「腎」と「肝」の「陰」を補う目的をもち,生薬の種類・構成・薬性がかなり違う処方があります.「女貞子」と「旱蓮草」の2生薬のみからなる「二至丸」です.明代の書物に初めて記載され,清代の方剤学書に詳述され,基本処方の一つとして確立され,現代中国では,特徴を生かした応用が探求され続けています.
「滋補腎陰・滋養肝陰」が「二至丸」の主要な薬効です.「女貞子」と「旱蓮草」は「腎」と「肝」に働き,甘味の補益・滋養,寒涼性の抑制・清浄化の薬性が共通で,さらに,「女貞子」には苦味の抑制・清浄化,「旱蓮草」には酸味の収斂・保護の薬性もあります.これは,「陰」の不足のために抑制がきかない機能の亢進・暴発で生じる「虚熱」や「血熱」を鎮め,「腎」と「肝」に関連の深い髪・耳・目・爪・筋・歯・骨の組織に,「陰」の充実を反映する若々しさ・色つや・潤い・しなやかさ・堅固さと,安定した機能を回復・維持するために役立ちます.
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