No.78 特徴的な形状の植物がもつ痔に効く薬性
街路樹として植えられる落葉高木にマメ科のエンジュ(槐)があります.春には新緑の若葉が,夏には米粒のような花がつき,秋には枝から数珠のような形に垂れ下がる果実が,さやとして種子を宿します.冬には種子が透けて見えるほど果実が熟し,鳥に食べられることで,種子を遠くまで運ばせます.漢方では,この成熟果実は,「槐角」の名称(角はさやの意味)の生薬として二千年前から知られています.
「槐角」は,苦味で寒涼性の生薬に特有な,「熱」を抑える薬性があり,特に「大腸」に作用し,強い炎症・充血・出血をともなう「血熱」の解消に役立ちます.そこで,痔による出血・痛み・腫れなどに適応されてきました.
同じく二千年前から知られる生薬「地楡」も同じ薬効があります.楡に似た葉が地を這うように生え広がることに由来する名称ですが,「地楡」の正体は,秋におなじみのこっけいな小さい穂状の花を咲かせるバラ科のワレモコウの根茎です.苦味と寒涼性で「血熱」を抑える薬性に加え,酸味で収斂する薬性が,表面を引き締めて止血を早める助けになります.
宋代の方剤書には,「槐角」を主薬として,「地楡」などを配合した「槐角丸」という処方が収載され,痔出血などの疾患の治療のため,後世の用薬の模範になりました.現代でも,「槐角丸」が簡便に服用できる本場の漢方製剤(中成薬)として,原典の組成がそのまま受け継がれ,優れた薬効が活用されています.
<大熊俊一 オオクマ トシカズ>
1980年 東京薬科大学卒業。薬剤師試験合格。
1981年 同大学第2薬化学教室助手。
1982年 同退職後、研究生。
1987年 同大学に学位論文を提出し、審査・試験に合格し薬学博士を取得。
1991年 有限会社大熊薬局代表となる。
掲載紙名:両毛新聞(3ヵ月に1回)(No.47までは月1回)