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No.85 西洋医学が模範にする漢方の診断・治療

 アメリカの科学雑誌サイエンス(2014/12/19)に,初めて,本場中国の漢方「中医学」の研究者の投稿論文を集めた特集号が出ました.同誌の代表発行者でアメリカ科学振興協会の最高責任者アラン・レシュナーが序文を寄せ,西洋医学で中医学が近年注目されている背景を解説しています.

 西洋医学は,病態の分子レベルのミクロなメカニズムを解明し,薬物療法のエビデンスを固め,病気の完全制圧へ日進月歩・順風満帆に見えます.一方,予測不能な副作用など,近視眼的なアプローチの宿命的な限界を深刻に考える学者が増え,病態をマクロに捉え,全身を見渡して病気を診断・治療する中医学を見習おうとする気運も高まっているのです.

 捉え方について,研究会で最近話題の興味深い例は「チャガ」です.シベリア産のキノコで,ロシアや日本で癌に対するミクロな作用が解明されています.中国の「霊芝」になぞらえて「シベリア霊芝」とも呼ばれます.中医学では,体内の「水」の流れの停滞で,体液が貯留・濃縮・凝固して全身の流通や機能を障害する病態「痰湿」の解消作用が認められます.「痰」の固まりには,「シベリア霊芝」の鹹味(浸透圧を上げる効果)で水を引き込み溶解し,不要な「湿」の水分は,淡味(浸透圧を下げる効果)で排出させる――そのように適応の病態と作用をマクロに捉え,西洋医学の欠点を補い,広い疾患治療に導く道を開いています.