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No.106 ワクチンによる感染収束を助ける漢方

 前年から続く新型コロナウイルス感染症は,変異を繰り返して感染力を強め,感染対象を市中に広げて猛威を振るってきたウイルスに対して,今後,多くの人がワクチンの接種によって有効な抗体の産生能力を獲得し,感染を収束へと向かわせる最終段階に入りました.
 ワクチンは18世紀末に英国で発見された感染予防法ですが,中国でも16世紀(明代)頃に先駆的に類似の予防接種が行われていました.現代医学では,さらに多種類の感染症に応用され,技術が進歩しましたが,基本原理は同じです.病原性の無い病原体を人体に入れ,感染の予行演習をさせ,特異的な免疫を持つように仕向ける方法です.体内の免疫システムがしっかり働くことが前提条件です.

 漢方では,特に明・清代の500年間に大きな疫病の流行が合計100回も頻発したこともあり,個別の病原体への特異的な治療・予防法より,一般的・普遍的な疫病対策を求める方向に用薬や処方を発展させてきました.
 「人参蛤蚧散」は,「蛤蚧」を主薬とする元代の処方で,病原体と闘う免疫の最前線になる「肺」と,基盤となる「腎」の機能の衰えを補います.免疫システム全体を強化して,ワクチンが効くよう助ける漢方の模範になります.
 「板藍根」は,元代の「普済消毒飲」に配合され「熱毒」に用いられてきた生薬で,現代では,広範なウイルス感染症の治療に応用されます.ウイルスに共通な病症の特徴に合う「板藍根」の薬性の解明と活用の進展が期待されます.