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No.108 夜間頻尿を治す処方の補助になる生薬

 就寝後何度もトイレに行く夜間頻尿,尿量過多で尿漏れしやすいのに適する処方として,漢代(2千年前)に考案された「八味地黄丸」が有名です.泌尿器系を含む「腎」の衰えの現れと考え,回復に役立つ生薬が選ばれています.組織の物質的な充足と安定性を象徴する「陰」を補う,甘味で滋養性の高い根類の「地黄」と,機能の活発さと力強さを象徴する「陽」を補う,強列な辛味の刺激をもつ根類の「附子」を処方の主要な成分として「腎」の回復を図ります.

 さらに,補助的な役割の成分として,酸味と渋味の強い果実類の「山茱萸」や,濃厚な肉質で粘りが強い芋類の「山薬」に特有な収斂の性質を生かして,体内から水分や栄養分が失われ過ぎないよう守るための配合があります.このような作用の生薬は「固渋薬」と総称され,他にも多種多様な天然素材が知られています.

 特に頻尿の緩和に役立つ「固渋薬」として動物性の生薬「桑螵蛸」があります.カマキリの卵を収めるサヤ(卵鞘)です.軽質で柔軟な多重層構造で,産卵から孵化まで越冬の厳しい環境から守る緻密で強靭な組織だけに,人体内部の物質が失われないよう強固に守る薬性も生み出します.漢代から知られる生薬で,宋代にはこれを主薬とする処方「桑螵蛸散」が考案されました.頻尿・尿失禁を起こす「腎」の衰えと,動悸・不眠・多夢・健忘を起こす中枢神経と循環器系を含む「心」の弱まりとの間の悪循環にまで適応を発展させた処方です.