No.113 脳脊髄液減少症の治療を助ける漢方
脳脊髄液減少症は,脳と脊髄を覆う髄膜が打撲などで破れ,脳室やクモ膜下腔を満たす脳脊髄液(髄液)が漏れ出すため,脳と脊髄が浮かんでいられずに沈み,頭痛・めまい・吐き気を起こし,記憶力・集中力などの高次機能にも影響が出る病気です.治療には,自己の血液を注入し,損傷部で凝血させて組織再生を促す生理作用を利用して髄膜の破れを塞ぐ方法が採用され,保険適用されています.
起き上がったときに症状が出るので,起立性調節障害と間違われることがあります.後者は交感神経の減弱のため,低血圧・脳貧血で立ちくらみを起こす状態です.毛細血管の血圧も低くて血液の浸透圧を上回りにくいと,血管から内腔への分泌が悪く,髄液漏出ほどでなくても髄液減少ぎみになることが,症状が似る理由かも知れません.また,髄液減少症を治療しても髄液圧が回復しにくい場合は,やはり髄液の分泌が悪いせいかも知れません.
漢方の観点からは,髄液減少症も起立性調節障害も共通して,頭を上にして立位を保つため内部から支える働きが弱いと捉えます.消化器系の機能の低下から,栄養吸収が弱く,エネルギー産生が減退した「脾気虚」の状態になると,体内の器官を持ち上げる「昇提」という働きが弱まり,「下陥」を来たすとされます.「補中益気湯」は,昇浮の薬性の「黄耆」が主薬で,消化器系の回復を図る処方です.髄液の
代謝や髄膜の自然治癒の改善も期待されます.