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No.114 回復の障害が発病の素因でもあった?

 脳脊髄液減少症という病気は,脳と脊髄を覆う髄膜が破れて髄液が漏出するため起こり,髄膜の破れを塞ぐ治療法が確立されています.ところが,この治療が成功しても体調不良が回復しない場合があり,そのため復学も社会復帰もままならず困窮している人の相談を受けました.漢方の視点から原因を探りました.

 食べると眠くなる,長く起きていられない,体の力がない,立ちくらみ,疲れるとアレルギー性鼻炎や皮疹が出るなど,消化器系「脾」の機能の減弱のためにエネルギー産生が不足する「気虚」で,組織を支える力がなく「下陥」を来たしているようです.さらに,水分代謝が停滞した「湿」による頭重,前頭部の張りを起こすようになり,医師に水頭症を疑われ処方された「五苓散」で頭重だけは軽減しました.また,爪がもろい,傷が治りにくいなど,再生が遅い傾向が認められ,血液の栄養供給が弱い「血虚」のようです.自律機能を調節する「肝」の抑制が利かないためか,アレルギー症状の悪化にもつながると本人の実感がありました.ときに,手足の先・頭の冷え,頭痛など,血行が滞る「瘀血」も起こしています.

 「気虚」と「血虚」の基礎的改善を図ることで,食欲が増し,体力が回復してきました.食事・寝起き・運動など生活習慣を改善する意欲も湧いてきて,やがて社会復帰も期待できそうです.そもそも「気虚」と「血虚」こそが,髄膜の破れが自然治癒せず,髄液が減少し続けて発病した素因になったのではないでしょうか?