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No.32 感染症に適用される2系統の薬性

 ウイルス・細菌などによる感冒やその他の感染症において,人体はそれらの病原体を攻撃・排除する目的で,発熱と炎症を起こします.しかし,その過程で起こる反応がすべて,人体に有利で,病原体に不利な条件を与えるとは限りません.発熱のための皮膚血管の収縮による放熱抑制は,体表の免疫を手薄にし,代謝の活発化による産熱亢進は,内臓・筋肉の消耗・疲弊につながります.漢方には,これらを調整する豊かな知恵と手段があります.

 「麻黄」・「桂枝」・「細辛」・「紫蘇」・「荊芥」・「防風」・「白シ」・「辛夷」・「生姜」・「葱白」・「芫スイ」などの生薬は「辛温解表薬」と総称されます.辛味・芳香・軽質・淡薄の生薬に特有の発散性・昇浮性に加えて,温熱性の薬性に由来する,強力な血管拡張・発汗促進の作用で,不必要で無益な発熱を放散に導き,皮膚・粘膜の循環を復旧させることで,体表の免疫システムを万全にし,病原体を追い込む助けになります.「麻黄湯」・「桂枝湯」・「葛根湯」に配合され,主に,悪寒の強い場合に活用されます.

 「金銀花」・「連翹」・「薄荷」・「牛蒡子」・「蝉退」・「桑葉」・「菊花」・「葛根」・「柴胡」・「升麻」・「浮萍」などの生薬は「辛涼解表薬」と総称されます.辛味・芳香・軽質・淡薄の生薬に特有の発散性・昇浮性に加えて,寒涼性の薬性に由来する,軽度の発汗促進,熱代謝の抑制のほか,消炎・抗菌・抗ウイルスなどの作用があります.「銀翹散」・「銀翹解毒片」・「桑菊飲」に配合され,主に,熱感の強い場合に活用されます.