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No.38 湧き上がる活力を全身に送り届ける薬性

 胃腸の機能を高めて体力を回復する漢方処方として「補中益気湯」があります。これは、金代(13世紀)の李東垣によって考案された処方で、現在も、最も有力な「益気剤」として広範に活用されています。成分生薬として、特色の違う2種類の「益気薬」を巧みに組み合わせた、独特な処方構成になっています。

 「益気昇陥」の薬効を発揮する生薬が「黄耆」で、「補中益気湯」の主成分です。薬性としては、甘味に特有な補益・滋養性に温熱性が加わり、昇浮性も生み出しているのが特徴です。「気」(エネルギー産生の活力)を旺盛にすると同時に、絶え間なく下から上へ、内部から表面へ向かう「気」の流れ(エネルギーを全身に波及させる機能)を支え、心身の原動力・耐久力・抵抗力を維持し、「下陥」(神経・筋肉の緊張低下・無力症)の改善にも役立ちます。「升麻」・「柴胡」は、辛味・芳香・軽質に由来 する昇浮性で、「益気昇陥」を補佐します。

 「益気健脾」の薬効を発揮する生薬が「人参」・「白朮」・「炙甘草」で、主成分の次に重要な成分です。薬性としては、甘味に特有な補益・滋養性に温熱性が加わり、「脾」(消化器系)に重点的に作用します。「気」を旺盛にして、特に「脾」の機能を高める結果、エネルギー源が消耗しないよう、効率的な栄養素の消化吸収を促進できます。「陳皮」は辛味・芳香による発散・疎通性の刺激で、「当帰」は甘味による滋養・緩和性の働きで、消化器系の機能失調を防ぎ、間接的に「益気健脾」を補佐します。