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No.49 慢性的な耳鳴・難聴の基礎改善の処方

 「柴磁地黄丸」という漢方薬は,宋代の名医 が考案した「六味地黄丸」に「柴胡」と「磁石」を配合した処方です.「耳聾左慈丸」の名で清代から伝えられる2処方の一方で,「耳鳴丸」とも呼ばれます.名称のとおり,「六味地黄丸」の適応対象の「腎陰虚」が基礎にある慢性的な耳鳴と難聴の治療に特化させた処方です.

 「滋陰補腎」の薬効を「六味地黄丸」の6生薬が生み出します.「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」は,甘・酸・渋味と温熱性による滋養・補益・収斂の薬性があり,「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」は,淡・苦・辛味と寒涼性による排水・抑制・発散の薬性でバランスをとります.生命維持の機能系「腎」に効くのが共通で,心身の態勢転換の自律調節系「肝」,栄養供給の消化器系「脾」にも効く生薬を配して,休養態勢で体内に蓄えられるべき栄養と潤いの要素「陰」を,総合療法的に無理なく穏やかに回復させます.

 「疎肝解欝」の薬効を「柴胡」が生み出します. 辛味・芳香・軽質による昇浮・発散・疎通の薬性があります.「肝」に刺激を与え,感情・欲求や生理的リズムに従って態勢を転換する連携の失調による緊張や抑欝を解消します.

 「平肝潜陽」の薬効を「磁石」が生み出します.鹹味・重質と寒涼性による沈降・抑制・鎮静・滋養の薬性があります.「腎」を滋養し,休養態勢を支える基礎的な仕組みを整え,「肝」を安定させ,活動態勢で働く機能の亢進を抑え,酷使されている聴覚器系の回復に役立ちます.