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No.51 消化器系内の連携を正常にもどす処方

 夏の感冒などにともなう嘔吐や下痢(霍乱)に用いられる漢方薬に,宋代の「藿香正気散」があります.消化器系を構成する機能の正常化のための配慮が行き届いた処方です.漢方における広義の消化器系の区分と名称は現代医学の定義とは少し違います.「胃」が飲食物を受け入れ,流動物状にまでこなして下部へ送り,「脾」の働きで消化を進めて,栄養素と水分を吸収し,循環器を介して「肺」へと上げ,酸素とともに全身に供給し,不要分は下に排泄します.「藿香正気散」の生薬構成の目的はこの機能区分の認識に基づき,呼吸器感染でも影響を受ける消化器系の本来の正常な上昇・下降の流れをしっかり取りもどすことです.

 「醒脾昇清・解表化湿」という薬効を発揮する生薬群は「藿香」・「紫蘇」・「白芷」・「桔梗」などです.芳香・軽質・辛味の生薬に特有の昇浮・発散の薬性が「脾」から「肺」への連携に作用し,障害となる感染症「表証」や水分停滞「湿」を解消し,消化・吸収・供給の機能を促進します.障害のためにへたばった「脾」を目覚めさせて,必要物「清」の快調な流れを復活させるのです.

 「和胃降濁・理気燥湿」という薬効を発揮するのは「半夏」・「陳皮」・「厚朴」・「大腹皮」・「生姜」などです.苦・辛味の生薬から生まれる沈降・乾燥の薬性が「胃」と「肺」に作用し,連携運動リズムの失調「気逆」をおさめ,「湿」の解消に寄与し,飲食物の受納・伝導・排泄の連携を助けます.失調して逆上する「胃」を和ませて,不要物「濁」の順調な流れを回復させるのです.