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No.54 体液の恒常性維持を助ける漢方処方

 漢方における「腎」は生命を維持するための基礎的な機能を果たす器官系を象徴し,体液の恒常性維持という現代医学的な腎臓の機能も一要素として含みます.日本で比較的よく活用されている「牛車腎気丸」は,宋代の医学書『済生方』からの出典で,体液の恒常性維持機能の衰えの改善に役立つ漢方処方です.「腎」系に作用し,組織の栄養面(「陰」)を整えながら,機能の活発さ(「陽」)を高める薬効のある,漢代の「八味地黄丸」(原名「腎気丸」)に「牛膝」・「車前子」を加味した成分構成です.

 「補腎滋陰」という薬効を生む主要な6成分は,「熟地黄」・「山茱萸」・「山薬」の3補薬と,「沢瀉」・「牡丹皮」・「茯苓」の3瀉薬とからなります.基礎を支える「腎」と,態勢転換の「肝」,栄養吸収の「脾」にも作用し,甘・酸・渋味と温熱性の3補薬の滋養・保護の薬性と,淡・苦・辛味と寒涼性の3瀉薬の排水・浄化の薬性でバランスをとり,組織に栄養素と水分を蓄える休養態勢の条件を穏やかに整えます.

 「益火助陽」という薬効を生む少量配合の成分は「附子」・「桂枝」です.辛味と温熱性による鼓舞・振奮の薬性で「少火」を燃やし,体液代謝を含めた「腎」の基礎機能の活発さを高め,エネルギッシュな活動態勢を支えます.

 「利水下行」という薬効を生む加味の成分は「牛膝」・「車前子」です.苦・酸・淡味と沈降・滑性による排水・泄利の薬性で,余剰の体液を下の関門から排出する働きを増強します.