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No.58 究極の「補腎薬」への薬性理論の集大成

 漢代の「八味地黄丸」を原点とする「補腎薬」の処方構成は,無理なく巧みに薬効を最大化させ,バランスよく細心に副作用を最小化させる努力の結果,時代とともに生薬配合数が多くなりました.「至宝三鞭丸」は南宋宮廷の御用処方として13世紀に考案されたと伝えられる「補腎薬」で,この頃使われ始めた動物薬を含め,本場の名薬を勢揃いさせたような30余種の贅沢な配合で,薬性理論上も,後の発展を先取りした深い配慮に満ちた構成です.

 「補腎助陽・滋陰填精」が「至宝三鞭丸」の主要薬効です.「海狗腎」・「広狗腎」・「鹿腎」・「鹿茸」・「蛤蚧」・「海馬」・「熟地黄」・「菟絲子」・「巴戟天」・「杜仲」・「補骨脂」・「淫羊藿」・「肉蓯蓉」・「肉桂」・「沈香」など,鹹・甘・辛味で温熱性の生薬の濃厚な滋養と鼓舞の薬性,「山茱萸」・「覆盆子」・「桑螵蛸」の酸・渋・甘味の固摂・保護の薬性が「腎」に作用し,生命力の根源(「精」)の蓄えを強力に回復して,組織の栄養状態(「陰」)を補いつつ,機能の活発さ(「陽」)を高めます.

 「益気健脾・養血安神」が「至宝三鞭丸」の補助薬効です.「人参」・「黄耆」・「白朮」・「山薬」・「茯苓」などの甘味の生薬の補益の薬性と,「甘松」の芳香の賦活の薬性で消化器系(「脾」)の栄養吸収を推進する力(「気」)を高めます.「当帰」・「芍薬」・「何首烏」・「枸杞子」などの甘・酸味・潤質の生薬の滋養・安定化の薬性と,「遠志」の辛味や「菖蒲」の芳香の疎通・鎮静の薬性で休養態勢を安定させ,栄養供給を担う実質血流(「血」)を増し,全身条件を整えます.