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No.62 血流の回復に抑制的な薬性の主薬を抜擢

 体内に十分な量の血液が存在しても,末梢の一部の流れが停滞していれば,そこでは血液が機能を果たせません.漢方では,血行を改善する生薬を「活血薬」と呼びます.流れの停滞を解消することによって,血液の本来の機能を果たせるように活かすという意味です.

 「活血薬」には,セリ科・キク科・シソ科・ボタン科などの多種の植物由来の生薬が知られ,大まかに,芳香や辛味があって温熱性をもつもの(辛温の「活血薬」)と,苦味で寒涼性をもつもの(苦寒の「活血薬」)に分かれます.芳香や辛味の強い刺激は発散・昇浮の薬性をもたらすので,セリ科の「川芎」のような辛温の「活血薬」は,血流を活発化して力強く全身に波及させる効果により停滞を解消すると考えられ,広範な処方に組み込まれてきました.一方,苦味は抑制・沈降の薬性をもたらすので,シソ科の「丹参」のような苦寒の「活血薬」は血管系の緊張・痙攣・収縮を鎮めて緩める効果により血流の停滞を解消すると考えられ,歴史的には,何らかの機能の亢進・興奮状態・熱性症状などに限定的に適応されてきました.

 「活血」の薬効の改良を追及してきた中医学理論の進歩が生んだ革新的な生薬配合をもつ現代の漢方処方が「冠心Ⅱ号方」です.辛温の「川芎」・「紅花」と苦寒の「丹参」・「赤芍薬」の両方を配合し,「丹参」を倍量にして主薬とすることで,落ち着かせる苦寒の作用に力強い辛温の作用が加わった複合的な血行改善効果を広範に長期に活用することを可能にしました.